大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和34年(ワ)3292号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔争点〕一、原告は、次のとおり主張した。

被告B(注文者)は、昭和三一年八月初旬から約七カ月間に亘り、原告所有の家屋木造セメント瓦葺平家建店舗一棟実測建坪一一坪五合三勺、木造瓦葺二階建事務所一棟実測建坪九坪三合八勺二階坪八坪一合二勺(以下原告家屋と称する)の西側に隣接して、被告会社A(請負人)に請負わせて鉄筋コンクリート造陸屋根塔屋付二階建店舗付居宅建坪二五坪五合四勺二階坪二六坪一合四勺塔屋坪三合一勺の新築工事を施工させたが、被告らはその基礎工事に際し、注文者又は請負人として原告(2)家屋に損傷を与えるかも知れぬことを認識しながら又は過失によつてこれを認識しないで(しからざるも、被告Bは着工直前原告との間に成立した協定、即ち(イ)原告家屋の基礎西端から約一メートル以内の近接個所で土掘工事をする場合は急速にセメントを流しこむ等右家屋の損傷防止上万全の工法を実施すること、(ロ)右基礎西端から西方約二一センチの境界線を越えて土掘工事をしないという協定に違反して)、右基礎に接する約一一メートルの部分を約一メートル二〇センチの深さに矢板も打たないまま土掘工事をなしたため、土砂流出による地盤沈下のため、原告家屋が傾斜し、建具類の建付が狂い、土間や壁面に亀裂が生ずる等各所に損傷が生じた他、原告は工事中の震動が激しいので、危害防止のため家族を一カ月間他所へ避難させることを余儀なくされ、この結果原告は、合計七一三、四六〇円の損害を蒙つた。右損害は被告らの共同不法行為によつて生じたものである。

二、これに対し被告らはそれぞれ、被告会社は土掘工事に際し矢板を使用し、急速にセメントを流し込む等万全の工法を実施したもので、何ら責任を間われる理由がないと主張して争つた。

三、本判決は、下記のとおり、被告らの共同不法行為を認めるとともに、被告らに対し六三四、九九〇円の支払いを命じたが、認容された損害を参考までに略記すると、次のとおりである。

(一) 原告家屋の傾斜復元および破損個所の修理費用一八八、一四〇円

(二) 修理後の建物価値(交換価値)の低下による損害三四三、二〇〇円

(三) 原告家屋の修理見込期間(約五〇日)原告家族が他所に転居することに伴う費用

(イ) 荷物運搬往復トラツク代二、〇〇〇円

(ロ) アパート部屋代(五〇日分)一〇、〇〇〇円

(ハ) アパート権利金六〇、〇〇〇円から明渡時差引かれる損失金一二、〇〇〇円

(ニ)家屋の電話二台を甲家屋へ移転し、更に修理後家屋へ移転するに要する費用一六、〇〇〇円

(四) 原告家族を一カ月間他所に避難させたことによつて生じた費用

(イ) 荷物運搬往復トラツク代二、〇〇〇円

(ロ) 原告が右避難先から原告家屋に税理士業務のため通つた交通費(一カ月分)一、六五〇円

(五) 慰藉料六〇、〇〇〇円

〔判決理由〕第一、被告等の共同不法行為責任の有無について

被告河塚が昭和三一年八月初旬から約七カ月間に亘り大阪市都島区東野田町五丁目一一番地所在の原告家屋の西隣に接して被告会社に請負わせて被告家屋の新築工事を施工させたことは当事者に争いがないが、凡そ既存家屋に隣接する新築家屋の基礎工事をなす場合には周到な工事設計に基き適時適所に矢板を打込む等して隣地の土砂崩壊等により既存家屋に損傷を与えたり、その居住者に危害を及ぼすことのないよう万全の工法を実施すべき注意義務があるのに拘らず(建築基準法第九〇条第一項参照)、≪証拠略≫によれば、被告会社は被告河塚の作成した家屋設計図に則りその指示に従つて同年八月一〇日から一〇数日間基礎工事のため原告家屋の西側基礎に沿う約一一メートルの部分を一メートル数十センチ以上の深さに、矢板も使用せず(矢板を使用したのは後記損害発生後である)その他何等隣地の土砂崩壊防止措置(本件工事現場附近は粘土質の軟弱な地盤である上戦災跡地で脆弱な土質になつていたので特に周倒な右措置を講ずることが必要であつた)もとらず漫然土掘工事をなしたので原告家屋の敷地の土砂の一部が工圧により崩壊流出して地盤沈下した右家屋が西方に約五センチ傾斜し、右家屋階下の床コンクリートおよび西側基礎モルタル部分の諸所に亀裂を生じ、玄関の硝子戸およびその西側の硝子窓四枚の建付が狂い、その下のコンクリート壁と柱の間に隙間を生じ、北西隅の書類棚扉およびその東側の扉が狂い、二階応接間南側の最西端の硝子窓、その外側の雨戸、階段昇り口の襖の建付が狂う等の損害を受けたこと、(家屋についての損害を認める証拠はない)および原告は土掘工事の進行に伴い家屋が益々傾斜することに危惧の念を感じ危害防止のため同年八月下旬から約一カ月間家族を後記町営住宅に避難させたことが認められ、≪証拠略≫は前記各証拠に照らして措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。右認定事実からみると被告等が共同不法行為者として連帯して原告の受けた損害を賠償すべき義務を免れないことは明かである。(幸野国夫 萩原金美池田博英)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!